トラウマのカウンセリング

「もう終わったこと、なのになぜ苦しいの?」

トラウマの回復過程と脳(海馬・扁桃体)の働き

「頭ではもう大丈夫だと分かっているのに、なぜか不安になる」
「親に怒られたことを思い出すと、今でも胸が苦しくなる」
「過去のことなのに、まるで今起きてくらいの不安が襲ってくる」
カウンセリングでは、よくこのようなお話しをお聞きします。

実は、トラウマによる苦しさは「気の持ちよう」ではなく、脳の働きが大きく関係しています。
今回は、トラウマが脳にどのような影響を与えるのか、そして回復していくプロセスについてお話しします。

トラウマとは「忘れられない出来事」ではない

多くの人はトラウマを、「とてもつらい出来事の記憶」という感覚をお持ちだと思います。
脳科学では、トラウマというのは「その時の記憶や感情を脳が適切に処理しきれなかったものであり、状態である」と理解されています。例えば交通事故やいじめ、虐待、モラハラ、親からの否定的な言葉などによって強い恐怖や無力感を感じると、脳は緊急事態モードになります。すると通常の記憶処理がうまく行われなくなります。
では、脳では何が起こっているのか…

トラウマが起きると脳で何が起きる

脳にはたくさんの部位がありますが、トラウマと特に関係が深いのが
海馬(かいば)
扁桃体(へんとうたい)
で、海馬と偏桃体は脳の奥の方にある器官で、海馬は記憶に、偏桃体は情動の処理に関係した働きを持っています。

扁桃体は「火災報知器」

扁桃体は危険を知らせる警報装置のような役割を持っています。
例えば
・車が急に飛び出してきた
・突然すぐ近くで大きな音がした
・誰かが近くで大きな声で近づいてきた
そんな時に瞬時に反応し、「危険です!身を守って!」という信号を身体中に送ります。
人間が元来から持っている命を守るために必要な仕組みです。

海馬は「記憶の整理係」

一方、海馬は体験を整理して保存する役割があります。
例えば、
・いつ起きたことか
・どこで起きたことか
・今は終わったことなのか
を整理しながら記憶を保管しています。


トラウマ体験では海馬と扁桃体の連携が崩れる

通常の出来事であれば、偏桃体が反応→海馬が整理→過去の出来事として保存されます。
しかし、強い恐怖やストレスにおいては、偏桃体が過剰に興奮することで、海馬の整理機能が十分に働かなくなります。すると記憶が、映像や音、匂いや身体感覚という断片で保存されてしまうことがあります。
そのため、「昔のことを思い出している」のではなく、「今起きている」という感覚になります。


なぜ些細なことで苦しくなるの?

例えば子どもの頃、親から怒鳴られることが多かった人がいたとします。
大人になってから上司に少し注意されただけで、動悸が激しくなる、頭が真っ白になる、そんなに大したことではないのに自分を責めてしまうということが起こるとします。

これは今の上司が怖いというより、脳の偏桃体が「昔の危険と同じ!」と誤認識して警報を出してしまうためです。
つまり反応しているのは現在の出来事だけではなく、過去の未処理の体験なのです。

幼少期のトラウマは脳の発達にも影響する

特に幼少期に繰り返し、虐待、ネグレクト、強い否定、家庭内不和(激しい喧嘩や緊張状態の継続)を経験すると、偏桃体は常に警戒モードになりやすくなります。また、慢性的なストレスは海馬の働きにも影響し、感情を整理する力や安心感を持つ力が育ちにくくなることがあります。

その結果として、人の顔色を伺いすぎる、自己肯定感が低い、いつも緊張していて脱力できない、休んでいるのに安心できない、というような状態に陥りやすくなることがあります。


トラウマの回復とは何が起きることなのか

ここで大切なのは、回復とは「忘れること」ではないということです。
カウンセリングを受けると、「つらかった記憶が消えるんですか?」と聞かれることがあります。
しかし、記憶自体を消すことはできません。


回復とは「過去の出来事になること」

回復が進むと、以前は思い出すだけで苦しかった体験が、「確かにつらかった。でももう終わったことだ」と感じられるようになります。つまり、ただの記憶になるということです。これは海馬が記憶を再整理し、脳が「今は、安全なんだ」と認識できるようになるということです。


扁桃体の警報が静かになっていく

回復の過程では、過敏になっていた扁桃体も徐々に落ち着いていきます。すると、必要以上にびくびくしなくなる、人といても不安にならない、起こられても必要以上に傷つかない、夜眠りやすくなる、など様々な変化が現れます。

カウンセリングで起きること

トラウマ治療やカウンセリングでは、安心できる環境の中で、

  • 感情を整理する
  • 身体の反応に気づく
  • 過去と現在を区別する
  • 安全感を取り戻す

ことを少しずつ行います。
そうすることで脳は、「危険はもう終わったんだ」と学習し直していきます。

まとめ

トラウマは心の弱さではありません。
強いストレスによって、

  • 扁桃体(危険センサー)が過敏になる
  • 海馬(記憶整理係)がうまく働けなくなる

ことで起きる脳と心の反応です。
そして回復とは、つらい出来事を消すことではなく、「過去の出来事として脳が整理できるようになること」です。
もし今も過去の出来事に苦しみ、「もう終わったことなのに苦しい」と感じているなら、それはあなたの弱さではなく、脳がまだ危険が終わったことを学習しきれていないだけかもしれません。
一人で抱え込まず、安心できる場所で少しずつ整理していくことが、回復への第一歩になります。


心鍼房では、親子関係やトラウマ、自己肯定感の問題に対するカウンセリングを行っています。

「なぜこんなに生きづらいのか分からない」
「頭では分かっているのに気持ちがついてこない」

そんな方は、お気軽にご相談ください。

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